【旅での事件 その2】 2007年10月3日(水)
※筆者注:関西&四国方面に車で旅をしたときのできごとです。
9月25日夜中の2時前、おれは、東名高速の海老名サービスエリアに着いた。
車から外に出ようとすると、若い男性が歩いて寄ってきて話しかけてきた。
男性「すみません、御殿場方面に行きますか?」
おれ「行きますよ」
男性「乗せていただくことはできませんでしょうか」
おれ「いいですよ」
そして、トイレを済ませた後、乗せてあげて出発したわけだ。
自分の車にヒッチハイカーを乗せるなんて、生まれて初めての経験だ。
道中、話を聞くと、彼はヒッチハイクで旅をしている旅人ではなかった。
彼のうちは大阪府八尾市にあるそうだ。
10月下旬から東京勤務になるため、住居を探しに東京に来たとのこと。
24日の午前中に新幹線で東京に来て、夕方までかかって住居を決めた。
そして、日帰りするつもりだった。
しかし! 財布をなくしてしまったのだ!
財布には、今回持ってきた現金すべてと、キャッシュカード、クレジットカード、運転免許証などが入っていた。
なので、彼は一文無しになってしまったのであった。
東京には知り合いはひとりもいない。
警察はお金を貸してくれない。
彼に残された道は、ヒッチハイクをして大阪まで帰る、これしか方法はない。
で、まずは、住居探しをした江東区亀戸で、乗せてもらえる車を探したという。
運よく乗せてくれた車のドライバーは、東名高速方面に用事などないのに、事情を知って気の毒に思ったのか、神奈川県の海老名サービスエリアまで送ってくれたのだという。そんな話を聞いて、世の中には親切な人がいるんだなあ、と思った。
彼が海老名サービスエリアに着いたのが19時ごろ、で、おれが乗せたのが翌日2時ごろ。
彼は、雨が降って寒い中、乗せてくれる車を探して7時間声をかけ続けたという。
サービスエリアなのでお茶や水は飲めるけれども、一文無しなので食べ物は食べられない。最後にとった食事は、24日の昼食だとのこと。
彼は、この後もヒッチハイクで進むか、もしくは、高速バスにツケで乗せてもらえないか頼むつもりだと言う。
本当にかわいそうだと思った。
おれは、彼に1万円を貸した。
貸してくれと頼まれたわけではないが、困っている人を見て、どうしても放っておけなかったのだ。
彼は、銀行のキャッシュカードが再発行され次第、おれの銀行口座に振り込んで返済する約束をしてくれた。
そして、連絡先の交換をした。
おれは、自分が走る経路を変えるつもりはないけど、都合のいいところまでどこまででも乗っていってかまわないよ、と伝えた。
でも彼は、静岡県の牧の原サービスエリアで「ここからバスを使って帰る」と言った。
なので、そこで別れた。
彼は、自宅に着いたらメールをくれると言った。
しかし、それから何日たってもメールは届かなかった。
彼が無事に帰宅できたかどうか心配だったので、旅の間、おれから何通かメールを送った。しかし返信はなかった。
次に、携帯電話に何度か電話をかけてみた。呼び出し音はなるが、いくら呼んでも彼は出なかった。
次に、自宅の電話番号にかけてみた。すると「現在使われておりません」のアナウンスだった。ここでいやな予感が少し頭をよぎった。
インターネットで調べてみたら、彼が自宅の電話と言って書いた番号は、八尾市のものではなかった。いやな予感がさらに高まった。
彼は住所も教えてくれていた。家族といっしょに暮らしていると言っていた。
おれは、彼のうちを訪ねてみることにした。
9月29日の朝、兵庫県尼崎市のホテルを出発したおれは、大阪府八尾市の彼のうちに向かった。
住所の場所には、アパートが建っていた。
一軒一軒表札を見て回ったが、彼の名字が見つからなかったので、アパートの前で掃除や野良仕事をしていたおじさんおばさんにきいてみた。
おれ「このあたりで○○さんというお宅を探しているんですが」
おばさん「○○さんなら、2、3年前に引っ越しましたよ。今はどこにいるかわかりません」
おれ「そうなんですか…」
いやな予感が確信に変わった瞬間だった。あのクソ野郎、お金を返す気ないな。
歩いて車に戻る途中、ショックで動揺して携帯電話を地面に落として傷つけてしまった。1万円を失ったショックではなく、人に裏切られたショックだった。
旅を終えてからもおれは、ヤツとなんとか連絡をとろうと、メールや電話をしまくった。
メール(ソフトバンクのSMS)は200通ぐらい送ったかな。すべて、ヤツの端末に届いた受信確認ができているが、一通も返信はない。
電話は100回ぐらいかけたかな。呼び出し音100回じゃないよ、100回ダイヤルしたってこと。だがヤツは一度も出やしない。
おれも狂ってるな。でもどうしても気がすまない。気がすむまで続けることになると思う。
このいやな気分をどうやって晴らせばいいのか。どうやって自分を納得させればいいのだろうか。
- 難民に寄付したと思えばいいのか。
- みじめな人が死んで、多めの香典を包んだと思えばいいのか。
- 1万円払って社会勉強したと思えばいいのか。
- 長い人生には、ときには理不尽な出費もあるもんだと考えればいいのか。
- お金を貸したことは軽率だったのだろうか。困っている人を前にしてもほったらかしにすべきだったのだろうか。今後また同じような人を見たとき、おれはどうすればいいのだろう。
- それにしても、人の善意を踏みにじったクズ人間26歳、絶対に許せない。許さない。
このようないろいろな考えが、もうずーっと頭の中をぐるぐる。
(10月5日につづく)
【旅での事件 その2 の続報】 2007年10月5日(金)
(10月3日のつづき)
今朝、職場に向かう電車に乗っていたら、携帯電話にメール着信。
送信者はなんと!ヤツだった。ヤツからの初めてのメールが届いたのだ!
超びっくりした!
ヤツ「すみません、もう一度振込み先教えてください、お願いします。すみませんでした」
おれ「おはようございます。みずほ銀行 渋谷支店 普通 XXXXXXX ○○○○タカマサ
です。よろしくお願いいたします」
少したって…
ヤツ「今、振込みました。本当にすみませんでした。1万5千円振込みました。少ないですけど、お詫びです。。。」
モバイルバンキングで自分の口座にアクセスしたら、確かに1万5千円振り込まれていた。
その旨返信した。
おれ「入金を確認しました。お貸しした分だけでよかったのに…。連絡が取れず不安で何度もメールやコールしてすみません。東京でもがんばってください」
そして夕方、返信があった。
ヤツ「ありがとうございました。本当にすみませんでした」
おれは複雑な気持ちになった。
もし彼を信じてだまって待っていても、貸したお金は返してもらえたのか。
それとも、おれがしつこく攻撃したから観念したのか…。
でもおれは、理不尽なことが許せないので、何かアクションを 起こさずにはいられなかった。
何百回もメールを送ったり電話をかけたりと、おれも大人げなかったけど、人を裏切ったように思えたヤツを許せなかった。
これで今回の事件は解決したけど、人付き合いってむずかしい!とつくづく感じました。
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